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お話・読み聞かせ , ehonly , えほんりー , 絵本 , 読み聞かせ
転校生のゆきちゃんの心理を描いた物語です。
おとなしく、あまりみんなと関わろうとしない転校生ゆきちゃん。
それには、ある訳があったのです。仲良くなるとお別れするときがつらいことを知っていたゆきちゃんは、みんなと親しくなることをあえて避けていたのです。
新たに転校することになったゆきちゃんからそれを聞き、その気持ちを理解したクラスのみんなは、その後手紙のやり取りをし、お互い本当の意味で分かりあえる友達になれたのでした。相手の気持ちを理解する大切さ、友達の絆がよく分かるお話です。
奥に小さな学校があった。2学期のはじめ、そこに転校生がやって来た。全員で50人しかいない小さな学校では、転校生なんてくるのは初めてだった。
転校生の名前はゆきちゃん。都会から来たゆきちゃんは、おとなしい女の子だった。休み時間になると、他の学年からも沢山の子が集まってきてゆきちゃんの机の周りを囲んだ。
「どこからきたの?」「どこにすんでるの?」「何人家族?」「そのかばんかわいいね」
色んな子が次々とゆきちゃんに話しかけた。ゆきちゃんは最初は小さくうなずいていたけど、そのうち下を向いて黙ってしまった。
それからも、ゆきちゃんはあまり自分から話すことはなかった。
クラスメイトが休み時間に「ドッジボールしよう」と誘っても、「鉄棒で前回りの練習しに行こうよ」と誘っても、ゆっくり首を横に振って、ゆきちゃんは窓からクラスメイトの様子を眺めるだけだった。
ある日クラスの出し物で紙芝居をすることになった。
台本を作る人、紙芝居を読む人、それぞれの役割り決めをした。
でも紙芝居の絵を描く人は、「オレ、絵描いたら話がわけ分からなくなるからぜったいにいやだ!」と大きな声で言いだす男の子がいたりして、なかなか決まらなかった。
授業の終わりのチャイムが聞こえた頃、後ろの方から小さく手が挙がった。ゆきちゃんだった。ゆきちゃんは絵がとても上手で、休み時間はいつもノートに一人で絵を描いていた。みんなから拍手をされたゆきちゃんは恥ずかしそうにまた、下をむいてしまった。
出し物の当日、ゆきちゃんの描いた紙芝居は他のクラスの子からもとても評判がよく、大成功に終わった。みんなからお礼を言われたゆきちゃんは、少しだけ笑顔になった。
2学期が終わるころ、相変わらずゆきちゃんはあまり話をしなかった。みんながわいわい騒いでる横で静かに絵を描いている姿が当たり前になった。
冬休みが終わった3学期のはじめ、先生が1通の手紙をみんなに読んだ。ゆきちゃんからだった。
「小学校のみんな、3年生のみんなへ なかよくしてくれてありがとう。私は、お母さんが病院に入院するので、おばあちゃんの家から学校に通うために2学期の間だけこの学校に来ました。
前にいた学校を転校するとき、友達と離れるのが悲しくていっぱい泣きました。お母さんが退院して、また転校をするときに同じようにいっぱい泣くのは嫌だなと思いました。だからあまりみんなと話したり遊んだりできませんでした。だけど私は、楽しそうに遊んでいるみんなの姿を見ているだけで、自分も楽しい気持ちになれました。
転校しても、楽しかったことを思い出せるように、休み時間に小学校の思い出を沢山絵に描きました。今度はまた違う学校に行くことになりましたが、この絵を描いたノートを見て、みんなのことを思い出します。今までありがとう」その手紙には、最後に50人全員の似顔絵が描いてあった。
先生が手紙を読み終えると、本当はみんなとドッジボールや鉄棒で遊んだりしたかったのかもしれないけど、楽しい思い出がたくさんあると後から悲しくなるから遊ばなかったのかなと、みんなで話をした。
「ゆきちゃんに手紙の返事を書こうよ!」だれかのその一言で、3年生のクラスとゆきちゃんの手紙のやり取りが始まった。ゆきちゃんは新しい学校のことを沢山絵にして送ってくれた。みんなも学校での出来事や休みの日の面白かったことを手紙にして送った。
4年生になった夏休み、おばあちゃん家に遊びに来たゆきちゃんが久しぶりに学校に来てくれた。転校する前よりももっと絆が深くなったゆきちゃんとクラスのみんなは、ドッチボールをして遊んだ。みんなでやるドッチボールは楽しくて嬉しくて、思いきり笑った。もちろんゆきちゃんも大きな声で沢山笑った。
おしまい