あらすじ…

さやかちゃんとお母さん、妹の三人家族のお話です。

仕事が忙しいお母さんと、さやかちゃんたちはお花見に行く約束をします。お母さんは、はりきってお弁当も準備して仕事に行きましたが、仕事が長引き、帰りが夜になってしまいました。お花見に行けず、泣きそうなさやかちゃんたちを、お母さんはある場所に連れて行き、楽しい思い出を作りました。さやかちゃんは大人になっても桜を見るとその日のことを思い出します。

どんな思い出も、楽しい思い出に変えられることが分かるお話です。

お花見の思い出（おはなみのおもいで）

さやかちゃんのお母さんはレストランで働いていました。いつも忙しく働いているお母さんは、さやかちゃんと妹を１人で育てていました。

学校がお休みの日でもお母さんは仕事でいないことが多く、さやかちゃんは友達がお母さんやお父さんと一緒に動物園や遊園地へ行ったという話を「うらやましいなー…」と思いながら聞いていました。

でも、疲れている顔を隠すように、くしゃくしゃの笑顔で「ただいまー」と言って帰ってくるお母さんの顔を見ると、さやかちゃんはなんだかお母さんを悲しませてしまうんじゃないかと思い、本当の気持ちを言えませんでした。

そんなある日、いつものように仕事へ行く準備をしながらお母さんは「明日、お昼で仕事が終われそうだから近くの公園へお花見に行こうか。春休みなのに、どこへも行ってないもんね」といいました。さやかちゃんと妹は「やったー」と大喜び。

「お弁当もって行こうね。おかずは、えーっと、卵焼きと、エビフライと、ハンバーグ！！」妹が、声を弾ませて言いました。「うん、そうしようね。明日の朝お弁当作るからね」お母さんも、笑顔で答えました。

次の日、お母さんは真っ暗なうちから起き出し、お花見用の弁当を作りました。卵焼きにエビフライにハンバーグ。妹のリクエスト通りの豪華なお弁当が出来上がりました。

「昼には帰ってくるから、そうしたらすぐ出かけようね」と、くしゃくしゃの笑顔で「行ってきます」と言ってお母さんはいつも通り仕事に出かけました。

お昼過ぎ。お母さんが帰ってくるはずの時間はもうとうに過ぎていました。「お母さん遅いね…」お母さんの帰りが待ち遠しくて、最初は家の外で待っていた妹も、待ちくたびれてテーブルで頬杖をついてぼんやりしていました。

「おなか空いたね…」さやかちゃんと妹はぼーっと窓の外を見ていました。日がゆっくりと落ちてきて、少しずつ暗くなる空を見ていると、お腹が低く鈍い音で「グーー」と何度も鳴り、さやかちゃんは泣きたくなりました。

辺りが暗くなり、街灯がつき始めた頃、お母さんが慌てて帰ってきました。「ごめんね、ごめんね、急に団体さんの予約が入って、帰れなくなっちゃって…本当にごめんね。」お母さんは何度も何度もあやまりました。

さやかちゃんは、なぜだかお母さんに申し訳ない気持ちや、悲しい気持ち、色んな気持ちが入り交ざって涙が出そうになったので、「うん、大丈夫だよ」と言うのが精一杯でした。

するとお母さんは「よし、今からお花見に行こう」と明るい声で言いいました。「え、外はもう真っ暗だよ」とさやかちゃんが驚くと「夜桜見物だよ。夜桜もきれいだよ。昔お父さんとよく夜桜見に行ったなぁ」とお母さんが懐かしそうに言いました。

そうして、さやかちゃん達３人は桜を見に公園まで出かけました。
公園にはもう誰もいなくて、薄暗い公園に入るのが怖かったさやかちゃんと妹は、お母さんの横にピッタリとくっついて歩きました。しばらく公園の中を歩くと、街灯に照らされた満開の桜が見えました。光を浴びた桜の花は白く浮かび上がり、いつもとは違う不思議な綺麗さがありました。

いつのまにか怖さも忘れ、さやかちゃんと妹は大はしゃぎで公園の中をぐるっと一周しました。それから家に帰るとお昼に食べるはずだったお弁当を３人で食べました。
すっかりご機嫌になった妹が「お花見楽しかったね」と無邪気に笑っていると、お母さんは安心したように大笑いしました。

その日から何年も経ち、さやかちゃんの娘はあの時のさやかちゃんと同じ12才になりました。
桜が咲くと、さやかちゃんはお母さんと妹と一緒に夜桜を見に行った日のことを思い出します。「あなたと同じ年のころ、おばあちゃんったら夜までほったらかしで帰ってこなかったのよ〜。でもそのおかげで、夜桜を見に行けたんだ。」と桜を見上げている娘に言いました。

すると「ちょっとちょっと、それは秘密！」とあわてておばあちゃんが、昔と変わらないくしゃくしゃの笑顔でさやかちゃんに言いました。大きくなったさやかちゃんは、おばあちゃんになったお母さんと、娘と一緒に、今年もお花見に来ていました。もちろんお弁当には、卵焼きとエビフライとハンバーグを詰めて。

おしまい

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