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ユウトくんの成長を描いたお話です。
お父さんを亡くしたユウトくんは、お葬式後泣かなくなったお母さんを見て寂しい気持ちになりますが、それはお母さんが必死に我慢しているからだということを理解します。妹の運動会で、毎年お父さんが参加していた綱引きにお父さん代わりに参加したユウトくん。お母さんと妹を守るお父さんの役目をこれからも果たそうと決意したのでした。
お兄ちゃんの優しさと強さが伝わるお話です。
ユウトくんは小学生。年の離れた妹のユキちゃんはまだ保育園に通っている。数日前、お父さんが病気で亡くなった。小さいユキちゃんは「お父さんいつ起きる?」と無邪気にお母さんに聞いていた。もうお父さんに会えないとわかっているユウトくんとお母さんは沢山泣いた。
何日か経っても、ユウトくんが泣き止むことはなかった。ユキちゃんも少しずつ会えないことがわかったのか、時々突然泣き出すようになった。そんな中、お母さんだけはお葬式が終わってから1度も泣くことはなかった。ユウトくんはそんなお母さんを見て、「お母さんはもう悲しくないんだ…」と少し寂しく感じた。
ある日、おばあちゃんが泊まりに来た。夜中にトイレに行こうとしたユウトくんは、お母さんがおばあちゃんの胸で泣いているのを見た。それを見て、お母さんは自分たちの前では泣かないけど、同じくらい悲しんでいるんだと気がついた。その日からユウトくんも泣かなくなった。
ある日、ユキちゃんが保育園の運動会のプログラムを持って帰ってきた。運動会では毎年親が参加する競技があり、それにはいつもお父さんが出ていた。今年はどんな競技なのか気になって見てみると「綱引き」だった。それを見たお母さんは「綱引きかぁ…」とため息をついた。
お風呂に入ってから部屋に戻ると、ユキちゃんが悲しそうな顔をしていた。「どうしたんだよ」ユウトくんが心配すると「綱引き…お父さんにでてほしかった…きっとみんなお父さんが出るもん…。お父さんに会いたいよ〜…!!」そういうと妹は、こらえきれずにワンワンと泣き出してしまった。ユウトくんは泣きじゃくるユキちゃんの頭をなでながら落ち着かせた。
「ユキは泣いてばかりいるけど、お母さんが泣かないのは何でだと思う?」
「…大人だから?」「うん。なんで大人は泣かないんだと思う?」「…ん〜…分かんない」
「ユキは転ぶとすぐ泣くだろ。お兄ちゃんは転んでも泣かないだろ。お母さんは転んで骨が折れた時も泣かなかっただろ。お母さんは痛くないのかな?違うよね。
大人は我慢が出来るようになるんだ。お父さんが死んでお母さんはユキと同じくらい悲しいんだよ。でも泣くのを我慢してるんだ。だからユキも泣かないで。お母さんが悲しくなっちゃうから。これからは、お兄ちゃんがお父さんになってあげる」
そんなユウトくんにユキちゃんは「おにいちゃんはおにいちゃんだもん…」そう言うとまた泣き出してしまった。ユウトくんの心はギュッとなった。
運動会の日、いよいよ綱引きの時間がきた。「綱引きに出る大人は、綱の周りに集まってください」先生が言うと、ザワザワと綱の周りに人が集まってきた。集まったのはお父さんばかりだった。「よし!お母さんがんばってくる!」お母さんは気合を入れると、お父さんだらけの中に入っていこうとした。
ユウトくんは走ってお母さんより先に綱の回りに集まった。それから観覧席の方を向くと「これからは僕がユキのお父さんになるって決めたんだ!だから綱引きは僕が出る!!」そう叫んで、ユキちゃんに手を振った。
周りからは拍手が起こった。それから「パーン!!」と綱引きが始まる合図。いろいろなところから「ユキちゃんのお兄ちゃんがんばれー!!」の声が聞こえた。ユウトくんは大人の中でもみくちゃになりながら必死に頑張った。結果は負けてしまったけど、「お兄ちゃんかっこいいぞー!」「ユウトくんお疲れ様ー!!」またいろいろなところから声が聞こえた。
みんなからの拍手を浴びながら、ユウトくんはお母さんとユキちゃんのところに戻った。「負けちゃったよ」と言うと、ユキちゃんもお母さんも泣きそうになりながら褒めてくれた。「立派なお父さんだったよ!」「おにいちゃん、お父さんみたいだった!」
ユウトくんは照れくさかかったけど、これからもお父さんの代わりを頑張ろうと心に誓った。
おしまい