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お母さんとひろき君の物語です。
徐々に物事を忘れてゆく病気にかかったお母さんのことをひろき君は理解し、
お母さんの記憶が鮮明なうちに、料理を教えてもらおうと頑張ります。
やがて、ひろき君のことすら忘れるようになったお母さんですが、
お母さんがよく作ってくれていたドーナツをひろき君が作ってあげるとお母さんは涙を流しました。お母さんからひろき君にしっかりと引き継がれた、懐かしい思い出の味が、お母さんの記憶の奥底でよみがえったのでしょう。親を思う子供の気持ち、子を思う親の気持ちは何があっても変わらないのですね。
ひろき君は学校の帰り、家までの道をスキップで帰っていました。今日はお母さんが退院する日。体の調子が悪かったお母さんは、検査のために遠い病院に入院していました。久しぶりにお母さんに会えるひろき君は、嬉しい気持ちを抑えきれずにいました。
「ただいまー!」元気に玄関を開けると「おかえりなさい」パタパタとお母さんが出てきました。今までなんども見た光景なのに、今日はなんだか特別に見えました。
いつもと変わらないお母さんの笑顔にホッとしたひろき君は、お母さんが入院していた間の話しや、今日学校であったことを、息つく暇もないほど話しました。お母さんは嬉しそうに「うん、うん」と聞いていました。
「そろそろおやつにしよっか。」そう言ってお母さんはいつも作ってくれていたドーナツを作ってくれました。いつもと変わらない味に、ひろき君は少し泣きそうになりました。
少しずつ前と変わらない生活に戻り始めましたが、ひろき君には気になることがありました。退院してからお母さんがたくさんメモをするようになったこと。よく忘れ物をすること。ご飯の味が時々変なこと。
なんとなくお母さんには聞きづらかったので、思い切ってお父さんに聞いてみました。すると、お母さんはこれからどんどんいろんなことを忘れてしまう病気だと教えてくれました。話しながらお父さんは泣いてたので、ひろき君は、これがとても大変なことなんだとわかりました。
次の日からひろき君は学校で必要なものは、紙に大きく書いて冷蔵庫に貼るようにしました。その小さな変化に気がついたお母さんは「ごめんね…」とひろき君に泣いて謝りました。
「どうしてごめんねなの?だって忘れちゃうのは病気のせいで、お母さんのせいじゃないでしょ?」ひろき君がそう言うと、お母さんはますます泣いてしまいました。ひろき君は、お母さんがいつもしてくれたようにお母さんの頭をよしよしと撫でてあげました。
それからひろき君は、ご飯の作り方やドーナツの作り方、お母さんが忘れないうちにいろいろなことを教えてもらいました。そうしているうちにも、お母さんは少しずついろんなことを忘れていきました。
ある日、お母さんがポツリと言いました。「ひろきのお母さんってこと、忘れたくないな…」お母さんの顔は、今までみたことがないほど悲しい顔でした。
「ボクはお母さんが忘れちゃっても、ちゃんとお母さんの子供だよ?」ひろき君がそう言うと、お母さんはハッとした顔になり涙が溢れ出ました。
「そうだね。ごめん。お母さんが忘れちゃっても、お母さんがお母さんだってことに変わりはないもんね。お母さんがいなくなっちゃうわけでも、ひろきがいなくなっちゃうわけでもないもんね。」そう言って、また涙を流しました。
お母さんはそれからもどんどん忘れていきました。時々ひろき君のことも忘れてしまいます。そんな日はひろき君はドーナツを作りました。「おいしいおいしい」と嬉しそうにドーナツを食べるお母さんの目には、いつも必ず涙がたまりました。それを見てひろき君は「きっと心で覚えてくれているんだな」と、温かい気持ちになるのでした。
おしまい