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とうろう流しに込めた人々の想いを描いた物語です。
毎年お盆に行われるとうろう流しでしたが、ダム建設に向け、ある時から中止されてしまいます。亡くなったお父さんへの想いを込めてとうろうを流しているお母さんを見ていたタツ君は、とうろう流し復活のための署名を集め始めます。その甲斐あって、違う場所でとうろう流しを復活させる事ができました。タツ君は、お父さんに、お母さんを守り続けることを誓いながらとうろう流しをするのでした。
誰かのために何かをしようとする心、素敵ですね。
タツ君は山に囲まれた、静かな田舎の村で産まれました。その村は、灯篭やお盆の供え物を川に流す『灯篭流し』が有名でした。だから毎年お盆の頃には沢山の人が集まりとても賑やかになりました。タツ君も、流れていく灯篭の灯りを家族みんなで眺めるのが大好きでした。
小学校に通い始めた頃、タツ君のお父さんが病気で突然死んでしまい、お母さんが仕事に行きはじめました。バタバタと毎日が忙しくなり、タツ君はお母さんと一緒にいる時間が少なくなりましたが、それでも灯籠流しの時だけは絶対、お母さんと一緒に行きました。
灯篭を流す時、お母さんは目をつぶって灯籠を流します。その顔はとても寂しそうな顔でした。タツ君はそんなお母さんの横顔を見ながら「死んでしまったお父さんへの思いをすごくたくさん込めてるんだろうな~」と感じていました。
しかし、タツ君が小学校を卒業する頃、ダム建築のせいで灯篭流しが中止になりました。お母さんはテーブルの上に置いてあったお知らせのチラシを手に取ると、とても寂しそうな顔でしばらく眺めていました。タツ君はその寂しそうなお母さんの顔がずっと忘れられませんでした。
灯篭流しがなくなって数年が経ったある日、タツ君がTVを見ていると「これに賛成の方はこちらにお名前を書いてくださーい!」と、駅で署名活動をしているニュースが流れました。それを見たタツ君は「これだ!!」と思い立ち、急いで机に向かうと、なにやら書き始めました。
次の日、学校に行くとタツくんは職員室に向かいました。「先生、これみんなに配りたいんですけど。」タツくんが見せた紙には、「灯篭流しを復活させよう!」と書いてありました。タツくんはお母さんの寂しそうな顔が忘れられなくて、どうすればまた灯篭流しができるか、ずっと考えていたのでした。
「これは?」先生が聞くと「灯篭流しを復活させる為の署名を学校のみんなからもらいたいんです。できれば家の人にも。」先生はタツ君の真剣な顔とタツ君が書いた紙を見比べながら「んー…」と少し考えたあと、「よし、今日の帰りに学校の全員に配ろう」と言ってくれました。
学校の終わり時間、放送が流れました。「みんなにお願いがあります。」タツ君の声でした。タツ君は放送を使って、灯篭流しを復活させたい理由と、署名のお願いをみんなに伝えました。放送が終わると、先生はタツ君が書いた手紙をみんなに配りました。「おれのばーちゃんも、毎年楽しみにしてたんだよなー。」「灯篭流し、懐かしいね!」みんなそれぞれ灯篭流しの思い出を話しながら手紙をカバンにしまいました。
次の日から毎日少しづつ集まった署名は、いつの間にか全校生徒分になっていました。生徒の家族もみんな署名をしてくれました。名前の横には「灯篭流しには大切な思い出がたくさんあります」「ずっと復活してほしいと思っていました」それぞれの灯篭流しへの思いが書かれていました。
どこから聞きつけたのか、署名の話が街の小さなTV局で取り上げられました。ニュースになったことで、学校以外からも沢山の署名が集まり、ついにその年、昔の場所とは違う場所で灯篭流しが復活することになりました。
灯篭流しの日。昔のようにタツ君はお母さんと一緒に向かいました。お母さんは嬉しそうな寂しそうな顔をしていました。「きっとお父さんを思い出しているんだろうな」タツ君は思いました。
会場に着くと沢山の人がいました。まるで昔の賑やかだった頃が戻ってきたようでした。次々に流れていく灯籠を見ながら「ウチも流そっか」お母さんが川岸にあるき出しました。
お母さんは昔のように目をつぶるとそっと灯篭を流しました。「タツのおかげでまた灯篭流しができたのよ」お母さんはお父さんに話しかけるようにつぶやきました。それからタツ君の方を振り返り、「本当にありがとう」お母さんは泣きそうな顔で優しく微笑みました。
しばらくの間、タツ君とお母さんは流れる灯篭を眺めていました。川辺を見つめているお母さんの横顔は昔と変わらずやっぱり寂しげでした。タツ君はゆらゆらと流れる灯りを眺めながら、これからももっとお母さんを大事にするとお父さんに誓いました。
おしまい