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「さるかに合戦」の猿に子どもが生まれたら、という視点のお話です。
賢く話のうまい猿一は、カニの持っていた握り飯と柿の種を交換しました。真面目なカニは子どものために柿を育てました。しかし木に登れないカニは猿一に渋柿を投げられ命を落としてしまいます。月日がたち、猿一に娘が生まれると、頭にはカニの残された子どものことばかり浮かびます。忘れるために奥さんと娘を顧みずに懸命に働いたことで、一人ぼっちになってしまいました。
悪い行いはいつか自分に返ってくると学ぶことができます。
昔々ある所に、一匹の猿の大将がいました。名前を猿一(さるいち)といいました。
猿一は賢い知恵と強い力と、みんなを魅了する話術を持ち合わせていました。
猿一は村で幾つもの悪さをし、村を我が物顔に練り歩いていましたが、村の子どもの中で猿一に歯向かう者は一匹ももいませんでした。
そんなある日、猿一が山を歩いていると、一匹のカニがうまそうな握り飯を持っていました。そこで猿一は「おいその握り飯おらに寄こせ」と言いました。
しかしカニのお母さんは「子ども達に食べさせる大事な握り飯だから、あげる訳にはいきません。」と言いました。
すると猿一はカニのお母さんにこう言いました。
「おれの持ってるこの素晴らしい柿の種と交換してやる。この種はあっという間に柿の実が付いて、お前の沢山の子どもを腹一杯食わせられるぞ。」
それを聞いたカニのお母さんは、成る程なと思い柿の種と握り飯を交換してしまいました。
正直者で真面目なカニのお母さんは毎日一生懸命柿の種に水をやり、3年後には柿の実をたわわにつけた立派な柿の木を育て上げました。
すると、猿一がやって来て「立派な柿の実だ、どれ味見してやろう」と柿を次から次へ食べて行きました。カニのお母さんは「おい猿一、私にも柿を放っておくれ。子ども達が楽しみにしているの。」
猿一は無視して柿を食べていましたが、あんまりかにがうるさいので、渋柿を一つカニのお母さんに目掛けて投げつけました。
カニのお母さんは泡を吹いて大怪我をしました。
それを見て怒ったのはカニの子ども達です。猿一の仕返しを企てました。
しかしカニのお母さんは布団の中で子ども達に言いました。
「人を呪わば穴二つ。復讐は復讐を呼ぶ。お前たちにはそうなって欲しくない。」
と涙ながらに言葉を残しました。
カニの子ども達は悔しくて悔しくて堪りませんでした。
一番上の兄さんカニが猿一に会った時、
「ぼく達はお前に復讐はしない。でもお前はいつか必ずぼく達の母さんにした事を思い出す。お前の人生で何度も思い出すはずだ。」とだけ言い残しました。
カニの兄さんは最後のお母さんの言葉を胸に、弟や妹を立派に育て上げました。みんなもそれぞれ精一杯真面目に生きて行きました。
一方、猿一はと言うというと、恋をしていました。
とても素敵な恋で、猿一は憑き物が取れたかのように丸くなり真面目に働きました。
そして月日は流れ、猿一はその恋人と結婚し、子どもを一匹授かりました。
本当に可愛くて幸せでした。家族を一生懸命守ろうと心に誓いました。
その時…忘れていたある光景を思い出しました。
若い頃、自分勝手に命を奪ってしまったカニの母親のことです。
猿一は娘が可愛ければ可愛いほど、カニの残された子ども達の事や、自分のした事が頭の中をグルグルと回ります。
それからというもの、そのことは猿一の頭から離れず、考えないようにするために死に物狂いで働きました。
愛する奥さんの話も聞かずに働きました。可愛い娘の成長も見ずに働きました。
昔の悪事を思い出さないように。でも、それだけでは拭い切ることができませんでした。
そして、気付いたときには愛する奥さんも可愛い娘も猿一から離れていってしまいました。
猿一に残ったのは後悔だけでした。
悪い行いは、いつか必ず自分の身に返ってくる。
「もしも生まれ変わることができるなら、真面目に生きよう。」と心に決めた猿一でした。
おしまい